top of page

急性・慢性心不全診療心不全ガイドライン:Vol.1 改訂のポイント

更新日:2018年11月13日

 2018年3月日本循環器学会で発表になりました「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」について、非専門の医療従事者がわかるよう、少しずつ概説していきます。

 2010年の慢性心不全治療、2011年の急性心不全治療ガイドラインが統合改訂となり、2017年急性・慢性心不全診療ガイドラインとなりました。今回は、まずその改訂のポイントについて報告します。


①心不全の定義

 我が国の循環器疾患の死亡数は、癌に次いで第 2位であり、心不全による5年生存率は 50%と予後についても決して良くありません。一方で、その事実と心不全の怖さ(例えば、完治しない等)については、国民にあまり知られていないのが現状です。そのため、心不全について、国民によりわかりやすく理解して貰うため、日本循環器学会と日本心不全学会とが連携し、新しい心不全の定義である「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。」が策定されました


②心不全のステージと治療目標 

 このガイドラインの心不全のステージと治療目標は、2005年のアメリカ心臓病学会ガイドラインで提唱されたものを準拠しています(http://www.yuminoclinic.com/blog/iinchou/2017/07/000777.html )。各ステージにおける治療目標はステージの進行を抑制することにあります。ステージA(リスクステージ)では心不全の原因となる器質的心疾患の発症予防を、ステージB(器質的心疾患ステージ)では器質的心疾患の進展抑制と心不全の発症予防を、そしてステージC(心不全ステージ)では予後の改善と症状を軽減することを目標とします。ステージD(治療抵抗性心不全ステージ)における治療目標は、基本的にはステージCと同様ですが、終末期心不全では症状の軽減が主たる目標なります。また、緩和ケアと終末期ケアは同義ではなく、緩和ケアは終末期から始まるものではないと区別されています。


③左室駆出率(LVEF)による分類

 このガイドラインでは、急性心不全・慢性心不全のガイドラインを統合するにあたり、アメリカ心臓病学会およびヨーロッパ心臓病学会のガイドラインを参考に、左室収縮能による心不全の分類が採用され記載されています。つまり、HFrEFをLVEF40%未満、HFpEFをLVEF50%以上、そして、HFmrEFをLVEF40%以上50%未満と分類しています。


④心不全の診断アルゴリズム

 心不全診断全体の流れを分かりやすく示したものに改訂されています。症状、既往・患者背景、身体所見、胸部レントゲン、心電図から心不全を疑う所見が1項目以上該当する場合に、心不全を疑わせる患者または心不全の可能性と判断します。次いで、NT-proBNP≧400pg/mlまたはBNP≧100pg/mlであれば、更に心臓超音波検査を追加します。病的異常所見あれば心不全と確定されます。また、安静時心エコー検査と症状に乖離がある場合などは、CT・MRI・核医学検査、運動/薬剤負荷試験、心臓カテーテル検査を追加するという診断アルゴリズムです。


⑤心不全の治療アルゴリズム

 心不全患者の多くはステージCであり、症候が改善してもステージCにとどまるため,急性期から慢性期治療への移行が重要という考えから、この心不全の治療アルゴリズムはステージCとステージDの心不全が対象で、更にステージCは左室収縮能による心不全の分類によりそれぞれ分かれた治療法が設定されています。具体的にはステージCのHFrEF(:ACE阻害薬/ARB+β遮断薬+ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、利尿薬、さらに必要に応じてジギタリス、血管拡張薬、ICD/CRT運動療法)、ステージCのHFpEF(:利尿剤、併存症に対する治療)、ステージCのHFmrEF(:個々の病態に応じて判断)、ステージD(:治療薬の見直し、補助人工心臓、心臓移植、緩和ケア)というアルゴリズムになっています。


⑥急性心不全治療における時間軸と病態をふまえたフローチャートを作成

 急性心不全は急速に心原性ショックや心肺停止に移行する可能性のある逼迫した状態であり、時間軸と病態を踏まえて、初期対応から急性期対応のフローチャートが作成されました。具体的には、トリアージ(10分以内)、迅速評価(次の60分以内)、再評価(次の60分以内)という時間軸を設定しています。


⑦重症心不全に対する補助人工心臓治療(VAD)のアルゴリズム

 新規発症重症心不全(急性心筋梗塞・劇症型心筋炎など)の場合と、慢性心不全急性増悪(拡張型心筋症や虚血性心筋症)の場合の2通りのアルゴリズムに分かれていて、それぞれにVADの治療戦略が明確に記載されています。


⑧心不全の緩和ケア

 今回のガイドラインでは、心不全に対する緩和ケアの必要性を医療従事者に啓蒙することも目的の一つとして記載されています。具体的には、アドバンス・ケア・プランニングと意思決定支援について、前述した緩和ケアと終末ケアの区別する心不全終末期の判断と緩和ケアの対象について、緩和ケアにおけるチーム医療の重要について詳細に記載されています。


参考文献:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

閲覧数:78回

最新記事

すべて表示

慢性心不全看護認定看護師より:第24回 身体所見のとりかた ③肺の聴診について

今回は肺の聴診についてお伝えします。通常、正常な呼吸数は1分間に12~18回でリズムも規則正しいですが、心不全を疑う呼吸困難などの時には、横になると呼吸が苦しくなるか、夜苦しくて目が覚めるようなことがあるかなど状況を聞いてみます(問診)。そして肺の音を聴き(聴診)、頸静脈が...

新型コロナウイルス感染症「地域で関わる皆さまへアンケート調査」

新型コロナウイルスの感染拡大を受け 、医療・介護従事者の皆さまにおかれましては、ご心労いかばかりかとお察し申し上げます。 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、日本では医療崩壊を防ぐために、重症者の治療とケアの観点から、高度医療を実施する医療機関を中心に注意が向けられていま...

慢性心不全看護認定看護師より:第23回 身体所見のとりかた ②頸静脈怒張について

頸静脈視診は簡単に行えるので、心不全診療においてぜひ活用したいアセスメントです。 頸静脈は右心の手前にあるため、頸静脈が怒張しているということは、全身から心臓に向かう血管の「交通渋滞」が起きているということが考えられます。坐位で頸静脈が怒張していて、仰臥位にてその増強を認め...

Comentários


bottom of page